映像新聞

映像新聞 平成26年9月8日(月曜日)より
朝日放送(ABC)は、テレビ朝日系列全国ネットで放送される全国高等学校野球選手権大会のダイジェスト・ドキュメンタリー番組『熱闘甲子園』において、昨年までのテープベースのリニア編集システムから一気にファイルベースのノンリニア編集システムへと大幅に移行した。 大会期間中(8月11-25日)、局内のスタジオに設営された同システムは、これまでのスポーツ編集にはないパフォーマンスと安定性を兼ね備えた新たなシステムとして採用された。 システム設計は阿吽(あうん)技研が担当した。
 システム構成にあたり、Final Cut Pro7(以下、FCP7)で対応できるシステム作りが前提となった。 朝日放送技術局制作技術センター制作技術係主任の村越順司氏は『熱闘甲子園』は、当日の試合や取材などで構成されたVTRがメインの番組となっており、編集者がディレクター同様、大きな役割を担っています。 編集環境が変わる中で何に重点を置いてエディティングソフトを選ぶかという点では、急にリニアから移行しても対応できるという現場の要望から、今年度は慣れ親しんでいるFCP7の選択がベストという判断になりました」と話す。 これは局内のXsanをベースとした30セット近いFCP7のシステムを運用している点や、関連子会社を含めユーザーが多いといったヒューマンリソースによる部分が大きい。
 1つのスタジオを2つに区切り、生放送用のオンエアセットと編集のベースステーションが併設されている。 ベースステーションの中央には試合中に現場から光回線で送られてくる9素材を映すモニターが設置され、編集者やディレクターは編集作業に入る前に収録されているすべての素材をチェックできる。 これらの9素材は、熱闘甲子園専用のカメラと高校野球中継カメラの分配および中継の白素材。 このシステムは2007年から既に運用済みで、今年はされに発展させたシステムになっている。 熱闘甲子園では昨年まではテープベースで編集をしていたが、番組制作全般をノンリニア編集を採用したのは今回が初の試み。

昨年との違い

 技術局制作技術センターの山村哲士氏は「スタジオ生放送は昨年から開始しています。それ以前はスタジオ収録で番組を構成していました。昨年は番組的に試合の結果など試合内容の構成が多かったのですが、今年から選手や関係者に注目した映像を多く取り入れ、試合のダイジェスト部分とのメリハリをつけるという流れになっています。 そのため、地区予選や昨年の映像などの取り込みが増えてきたという感じですね。VTRが3台だったところ、来年はもう少し増やしてほしいという要望もありました」。 村越氏は「昨年はリニアの編集ブースが6ブースあり、それぞれVTRが3台と受けが1台。すべての素材はテープで掛け替えながら作業していました。 中継の白素材などは頭出しを早くするためにディスクレコーダーを使用していましたが、それ以外はすべてテープでした。 昨年までは最終的な画像の処理は別の場所でしたが、これらのCG処理やテロップ処理を1カ所でできるだけでもかなり効率的になっています。 ただ、今年もスーバー入れとバックアップのためにリニアの環境を2ブース残しています。 以前までは各素材のキャプション書きのアルバイトが大勢いましたが、今年はかなり少人数で賄えていますね。昨年の半分くらいになっています」

インジェストシステム

 甲子園から光回線で送られてきたカメラソースは、Mac ProにmLogic社のサンダーボルト 拡張ボックス mLink Rで接続されたAJA KONA 3G、またはSoftronM80ハードウエアを介して取り込まれる。 インジェストソフトウエアはSoftron Movie Recorder 3を使用し、1端末で4ch同時収録できるMac Pro 2台と、8ch同時収録可能なMac Pro 1台をGB Labs社の SPACE SSD(11.5テラバイト)にProRes LTのオーディオ4chで収録される。 収録用のSPACE SSDは二重化されえいるほか、デイリーでレプリケーションするためのSPACEも拡張シャーシを使った2台構成(HDD96テラバイト×2)で、10ギガバイトイーサネットで接続し冗長化されている。
 今回のシステムを担当した阿吽技研の矢部拓也氏は「4試合目が遅くなると前後半で作業が分かれるので5ブース同時に編集をする可能性があります。 それぞれ9面のマルチカム編集をするのでSPACE SSDを選択しました。 最初はレプリケーション先にニアライン用途の安価なSPACE Ech oを想定していたものの、過去素材や地方大会映像などをVTRから取り込みして編集したいという追加リクエストのため、より高性能に変更しました。 今回採用したSPACEシリーズはすべてサインしんの2014バージョンで、キャッシュアルゴリズムが大幅に改良され全く違う性能で動作します。 容量とスピード、コストのバランスを考えるとすべてを同じモデルにするというのは無理があるので、目的に応じた性能を最大限に発揮するよう、ストレージの階層化を図っています。 SSDモデル(SPACE SSD)を主幹に採用しなければ、トータルで約70にもなる同時多重収録と複数端末での同時マルチカム編集のストリーム数は稼げませんでした」と話す。
 収録された当日分の映像は、保存先のSPACE SSDから読み込み、編集される。 映像素材はOA終了後にHDDのSPACEに移動され、SSDは空の状態で翌日の試合を迎える。 レプリケーション破綻末を使用しなくとも外部コマンドで動作可能。 オートメーション化され1日5テラバイト程度の収録素材のコピーが約2時間で終了する。

編集ブースの構成

 パーティションで区切られた7つのノンリニア編集ブースは、最新のMac Pro(Late2013)とAJA Io XT、FCP7を基本アプリケーションとして構成されている。 ノンリニア編集ブースの1-4は第1試合から第4試合、残りの3ブースは企画やデジタル加工のほか、スタジオ部分のインサート素材や企画ものの編集などユーティリティとして使用される。 それぞれのストレージと各端末はスイッチを介し、2本のGbE接続で9chのProRes LTでのマルチカム編集が同時に可能。 ネットワークをポンディングしたり、リード/ライトの特性に合わせてSMB2やNFS共有プロトコルを使い分け、うまく帯域のバランスを計っている。
 そのはかプレビュー専用の端末が2台用意されており、編集ブースを使用せずに映像ソースをマルチカムの状態で視聴する事ができるほか、ABC開発のウェブ配信システムを使用し、スタジオ内外でPC端末やiPad、スマートフォンのようなモバイル端末でも、収録時にアルバイトがキャプション付けしたデータを基に映像ソースを探すことができる。
 山村氏は「その日の試合は編集ブースで9面マルチのモニターを見られますが、以前の試合を探す場合にはすごく便利です。 昨年まではキャプションを見てテープを探し、その都度掛け替えるという作業が必要でした」と語る。

今後の動向

 村越氏は「今回このシステムで成功した結果を踏まえると、来年リニアに戻るということはないと思います。 その中でFCP7を使うのか別のアプリケーションを使用するかの判断は、ABC社内の通常運用システムにも大きく影響してくる部分なので、今後はそのシステムの方向性に合う別の編集ソフトを使う可能性はります。 今年の編集担当者たちの反応を見た感じでは来年も同じような環境になる可能性が高いのかなとは思います」
 「このイメージは3年ぐらい前から持っていました。ただ、期間限定で使用するために、社内の設備として購入するのではなく費用対効果も考慮し、そこにマッチする価格でなければならなかった。 という事はレンタルになるんですよね。今までこういう形でレンタルをできる所がなかった。 そこで、ソリューションベースのレンタル業務を開始したエムアイエムと、設計担当の阿吽技研との協力で実現下という形です」と説明する。
 矢部氏は「朝日放送は局内に既にXsanで構築されたラージシステムを持っていますが、今回はそのような常設の設備ではなく仮設なのでNASの即効性を最大限利用しました。 SPACEなら特別なドライバは必要ないので、例えばMac Book Proを持ってきてイーサネットで繋げばそのまますぐに編集できる状態です。 筒型Mac ProとFCP7の新旧のブレンドもポイントですね」と語っている。
 これらのレンタル機材は、熱闘甲子園の放送終了後には返却されスタジオは通常の状態に戻る。 今回のマルチカムノンリニア編集システムは、今後、基幹部分に40ギガバイトイーサネットを導入しストレージ間のコピー時間をさらに短縮するなど、より編集環境を豊かにするシステムの提案を考えているとのこと。

◆システム提案/設計:阿吽技研株式会社
◆機材レンタル元:株式会社エムアイエム